東京高等裁判所 昭和35年(く)3号 決定 1960年8月17日
少年 E
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、要するに、少年は従来の非行歴により一見甚だしい反社会性の持主であると認定される危険なしとしないけれども、実はその性格はむしろ直情にして善良とも判断され得るものであり、本件は少年の環境が甚だしく悪く、たまたま悪友に誘われこれを拒絶する自由が殆んどないままに事件に関係するところとなつたものであり、事件前決まりそうになつていた就職先の○○記録計器株式会社も現在少年の受入れにつき全面的に協力する態勢を執つている状況であるから、少年に対し中等少年院送致を言い渡した原決定は著しく不当な処分である。それ故原決定の取り消しを求めるため、本件抗告に及んだというにある。
よつて少年に対する少年保護事件記録並びに少年調査記録を調査して見ると、本件は、少年が、○藤○外十数名と共謀の上親分○山こと○載○が、西○一派の者に日本刀で右腕切断、背部切創の重傷を受けたことについて、その仕返しのため、西○一派に対し、共同して生命、身体に危害を加える目的をもつて、昭和三四年八月三〇日午前二時頃から翌三一日午前八時頃までの間、めいめい日本刀、匕首、肉切庖丁等を準備して、川崎市○町○○番地飲食店「○○軒」前路上および同町○○番地バー○○○○○二階に集合したとの事実であるところ、原決定でもいうごとく、少年は、昭和三三年一〇月一七日原裁判所において、傷害保護事件につき横浜保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受けた後、昭和三四年一月一四日暴行保護事件につき審判不開始決定、同年五月一二日暴行保護事件につき不処分決定、同年六月二二日傷害保護事件につき不処分決定を受けたにかかわらず、更に本件非行を重ねたものであつて、少年には自己の非行に対する反省の念が乏しく、積極的な更生意欲が見出し難い。しかして少年の性格は、安定性がなく、在宅処遇によつては性格改善がなされないため職場に安定することなく、徒食し自ら求めて非行集団と接触して来たものであり、本件の非行についても右のような状況からこれに加担したものであつて、その偏倚した性格はすでに固着したものと見られ、この性格が強く反社会的な方向へ指向しており、又少年の現在持つている社会観や価値体系はかなり一般社会的通念から外れていて少年の社会不適応の一因となつている状況であり、保護者である母や兄も十分な保護能力を持つているとは見受けられないし、○○記録計器株式会社への就職あるいは埼玉県北埼玉郡○○町○口○ね方への就職等の希望についても少年の性格、非行歴等に照らすと必ずしも適切な処遇とも考えられないのであつて、以上の諸事情や少年の年令等を併せ考えると、むしろ、この際少年に対しては適当な矯正施設に入所させて性格の矯正と環境の調整を図るのが相当であると認められるから、原決定が少年を中等少年院に送致することとした処分が著しく不当であるとは到底認められない。それ故原決定は正当であつて本件抗告はその理由がない。
よつて、少年法第三三条第一項後段、少年審判規則第五〇条に則り本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 長谷川成二 判事 白河六郎 判事 関重夫)